近年、世界ではユニバーサル社会の実現に向けたさまざまな取り組みが行なわれている。国内でも施設のバリアフリー化やエレベーターの設置など国や地域での動きが活発化している。ノーマライゼーションの普及によって株式会社INBプランニングが開発した高齢者・視覚障がい者向け歩行者補助信号機「i-signal」は、こうした社会の動きを促進させるものとして期待されている。そこで三輪佳永氏(日本ブラインドテニス連盟理事)と、落合啓士氏(ブラインドサッカー日本代表)に直接「i-signal」に触れてもらい、その効能を検証した。司会進行役を障害者スポーツにも精通している二宮清純氏が務め、利用者の視点から「i-signal」の可能性を探った。


二宮: 韓国・大邱で行なわれた陸上の世界選手権ではハンマー投げの室伏広治選手が金メダルを獲得し、来年のロンドンオリンピックの代表に内定しました。また、W杯で初優勝し、今や国民的人気を誇る「なでしこジャパン」も予選突破を果たすなど、現在、スポーツ界ではオリンピック・パラリンピックに向けた動きが活発になっています。落合さんが日本代表を務めるブラインドサッカーも12月には仙台市でパラリンピックの予選を兼ねたアジア選手権が行なわれますね。

落合: はい。ブラインドサッカーがパラリンピックの正式種目になったのは2004年のアテネ大会からなのですが、日本はアテネ、北京と出場していません。ですから、ロンドンではぜひ、初出場を果たしたいと思っています。

二宮: ブラインドサッカーのルールはフットサルと同じと考えていいのでしょうか?

落合: ほとんどそうですね。サッカーボールに鉛が入っていて、音が鳴るようになっているのが一番の特徴だと思います。それから5対5というのはフットサルと同じですが、キーパーが晴眼者で、フィールドの4人が視覚障がい者という構成になっています。私たちが行なっている全盲と光覚クラスのB1と、弱視クラスのB2、B3があり、B1ではフィールドプレーヤー4人はアイマスクをしなければいけません。それと、ブラインドサッカーならではのルールとして、DFがボールを取りにいく場合は必ず「Voy」(ボイ)というスペイン語で「行くぞ」という意味の言葉を発するんです。

二宮: ゴールの位置はどうやって判断するのですか?

落合: 相手ゴール裏からFWの選手にゴールまでの距離や角度を伝えるコーラーが、「右の45度、10メートル!」などと叫んでくれるんです。それでボールをコントロールしてシュートを打ちます。


■ 目指すはパラリンピック初出場


二宮: 落合さんは03年からブラインドサッカーを始めて、これまで日本代表としてどのくらい世界の舞台を経験されてきたのでしょうか?

落合: 03年のアジア大会から始まって7回ですね。一番いい成績を挙げたのは06年にアルゼンチンで行なわれた世界選手権での7位です。

二宮: ブラインドサッカーではどの国が強いのですか?

落合: 一般のサッカーとほとんど同じです。ブラジルがダントツトップで、南米では他にアルゼンチンやパラグアイ、コロンビア。一方、ヨーロッパではスペイン、フランス、イングランド、ドイツが強いです。

二宮: アジアでは?

落合: 中国と韓国、それにイランが急激に力をつけてきています。しかも中国とイランは世界でもトップ5に入るくらいの実力をつけてきているんです。中国は08年の北京パラリンピックでは銀メダルでしたし、昨年の世界選手権では銅メダルを獲得してロンドンパラリンピックの出場権を得ています。

二宮: 残る枠は一つということで、アジア選手権は厳しい戦いになりますね。しかし、日本はホームという有利性もありますから、ぜひ頑張ってください。

落合: はい、ありがとうございます。「なでしこジャパン」に続きたいと思っています!


■ ボール改良で高い競技性を実現!


二宮: 一方、三輪さんが熱中しているブラインドテニスは、日本発祥のスポーツということですが、一般のテニスとはどのような違いがあるのでしょうか?

三輪: ブラインドテニスは体育館で行なわれ、コートの広さはバドミントンと同じです。クラスは3つに分けられているのですが、全盲クラスのB1は3バウンド以内、弱視クラスのB2とB3は2バウンド以内に相手コートに返すというのが基本のルールです。ボールはスポンジでできたボールの中に小さな鉄球が4つ入ったプラスチック球が入っていて、その鉄球がプラスチック球に当たる音を聞き分けて、選手はボールの位置を把握します。

二宮: 三輪さんがブラインドテニスを始めたきっかけは?

三輪: 私がブラインドテニスを始めたのは30歳の時だったのですが、それまでもサッカーなど子どもの頃からスポーツはしていたんです。ただ、頭上にボールが上がってしまうと、照明が目に入って何も見えなくなってしまって、プレーができないんですね。だからいつもどこか不完全燃焼のところがあって……。でも、ブラインドテニスは違いました。実は父親が私が始める数年前からブラインドテニスやっていたんです。父はほぼ全盲に近いので、私が会場に連れて行っていたのですが、そこで私も体験してみて、「あ、これなら自分にもできるかもしれない」と思ったんです。

二宮: ブラインドテニスのボールはスポンジ製ですから、高く弾んでも頭の上を越えることはない。照明などは気にせずにできるというわけですね。

三輪: はい、そうなんです。それと、ブラインドサッカーもそうですが、音がするボールというのが私にとっては大きかったんです。たとえ見えなくても、音で判別できますから練習さえすれば、どんどん打てるようになる。これが嬉しかったですね。

落合: 私も一度、ブラインドテニスをしたことがあるんです。でも、ボールがあまり弾まなくて結構難しかったですね。あれを2バウンド目、3バウンド目で打ち返すというのはすごいなと思いました。

三輪: 実は今年から公式球がかわって、以前より弾むように改良されたんです。ですから、スピンがかかっていると、肩の高さまで弾むんですよ。そのためにB2やB3クラスでは展開がスピーディになって、よりテニスに近い感じになってきています。B1クラスはまだ新しい公式球に慣れるのに苦労していますが、徐々に慣れてラリーが続くようになれば、さらに面白く感じられると思います。今年は11月20日に「日本ブラインドテニス大会」が開催されます。新公式球の登場で、これまで以上に白熱した試合が増えそうで、今から非常に楽しみです。


■街中に潜む危険性


二宮: そのブラインドテニスの創始者である武井実良さんが目白駅でホームから転落して亡くなったのは、今年1月のことでした。

三輪: はい、本当に悲しい出来事でした。ホームには危険防止のための点字ブロックがありますが、その上に人が立っていたり、荷物が置かれたりすると、僕らはよけるしかない。そうすると、方向がわからなくなることも少なくありません。

二宮: 点字ブロックがあっても点字部分がすり減っていて、判別しにくいところもありますよね。

三輪: 武井さんが事故に遭われた後、目白駅に行ってみたんですね。そしたら、点字ブロックが埋め込み式だったために非常にわかりにくかったんです。しかも目白駅はホームの幅が狭いということもあり、やっぱり視覚障がい者にとってはちょっと危険だなと感じましたね。

二宮: 落合さんも身の危険を感じたことは?

落合: ありますね。私の場合は道を歩いているとき、よく車が走っている音で判別するんです。自分が進もうとしている方向に対して、車の音の方向が垂直であれば赤信号、同じ方向に走っていれば青信号だなと。ところが、最近増えてきた電気自動車は音がほとんどないので全くわからないんです。あれは怖いですね。それと、隣の人がスーッと歩いていくので「あ、青になったんだな」と思って自分も歩いていくと、プップッとクラクションを鳴らされて、自分の後ろを車がビュンッと走っていく時なんかはゾッとします。

二宮: 赤信号でも渡る人は少なくないですからね。おちおち人についていくこともできない。

落合: はい、そうなんです(笑)。

二宮: 三輪さんは交差点で困ることはありますか?

三輪: 私は虹彩(こうさい)といって、生まれつき光を調節する機能が働かない病気なんです。普段は例えば道を歩いていて、柱があるとか、人がいるとか、そういったことはわかるのですが、太陽など強い光をあてられると周りが何も見えなくなってしまいます。ですから、晴れた日などは信号機のところにちょうど太陽の光が当たっていると、どこに信号機があるかさえもわからなくなります。






■ 利便性を追求したNew信号機


二宮: この歩行者補助信号機「i-signal」は視覚障がい者や高齢者のことを考えてつくられた信号機です。胸の位置に信号やスピーカーがありますから、見やすいし聞き取りやすい。現在、試験用として大阪市鶴見区の鶴見警察署の前の交差点に8台設置されていますが、一般の人にも注意喚起となって事故が減ったそうです。

三輪: 従来の信号機は横断歩道の向こう側にありますが、「i-signal」はすぐ目の前にあって、しかも自分がいる方向にも信号がついていますから、間近で見ることができる。これは本当に助かります。

二宮: 落合さんの場合はいかがでしょう?

落合: 0.01未満の視力は順に指数弁、手動弁、光覚、全盲となるのですが、私は全盲よりも一つ軽い光覚(こうかく)なんです。赤や青といった色はわかりませんが、光の形状は判別できます、ですから「i-signal」のように青信号が「○(丸)」で、赤信号が「□(四角)」となっていると、「あ、今は赤だな」「青になったから渡れるな」とわかる。非常に便利ですね。

二宮: 地方での大会や遠征で困ることはありますか?

落合: 地方に行くと音声信号が非常に少ないので、宿泊先から少し離れた会場になると、困ることがよくありますね。もちろん、首都圏とは交通量が全く違い、ほとんど車は走っていないところもあるのですが、だからこそ注意しないといけない。信号があることさえも気づかずに渡って、たまに車がスーッと通って行くこともありますからね。押しボタン式の信号があるといいなと思います。

二宮: なるほど、確かにそうですね。「i-signal」は青信号ということを示す誘導音を止めて、押しボタンスイッチを押した時だけ一定時間誘導音が鳴るようにできますから、そういう場所にこそ設置してもらいたいですね。

落合: はい。この大きさなら小さな交差点にあっても邪魔にならないでしょうし、ゴム製ですから、安全面にも配慮されていますよね。

二宮: 他に「i-signal」への感想は?

落合: 私は天井部分に点字があるのが親切だなと思いました。現在地が真ん中にあって、東西南北それぞれの交差点名が記されているので、道がわかりやすい。欲を言えば、北がどちらかだけでも記されていると、さらにいいなと思いますね。

二宮: 三輪さんはいかがですか?

三輪: 私はカラーが黄色というのが、見やすくていいと思いました。最近、外観の美しさを考えて、点字ブロックが地面のアスファルトと同じグレーになっているところもあるんです。暗い時は、周りが見えなくなりますので、点字ブロックの上を歩くのですが、グレーだと非常に見にくい。例えば「i-signal」がグレーだと、わからなくてぶつかってしまう人も少なくないと思います。ですから、黄色というカラーは私たち視覚弱者にとっては非常にありがたいんです。私のように点字が読めない人には、点字の近くに大きめの字が書かれてあると、さらに嬉しいですね。

二宮: 2020年オリンピック・パラリンピックの開催地に東京が正式に立候補しました。「i-signal」は世界に先駆けたユニバーサル信号機ですから、招致活動が普及のきっかけになればいいですね。そして何より視覚障がい者、さらには高齢者に安全を提供することができるわけですから、全国に広がっていくことが望まれます。今日はありがとうございました。















【落合啓士(おちあい・ひろし)】
1977年8月2日、神奈川県横浜市生まれ。小学校高学年の時に「網膜色素変性症」にかかる。夜盲、色盲と徐々に病が進行し、19歳で視力を失う。2003年よりブラインドサッカーを始め、日本代表としてアジア大会や世界選手権大会など数々の世界の舞台を踏む。来年のロンドンパラリンピック出場に向け、今年12月のアジア最終予選に臨む。





【三輪佳永(みわ・よしなが)】
1973年4月2日、愛知県安城市生まれ。先天性無虹彩症。父親の影響で30歳からブラインドテニスを始める。ブラインドテニス(弱視クラス)の普及活動の一環として今年5月に「エンジョイテニスクラブ」を創設した。現在、日本ブラインドテニス連盟理事を務めている。







交差点調査
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